会社のお金と決算書が読める講座

区分3 経営に使う数字★★★

No.06 資金繰りと運転資金

「利益は出ているのに、今月の支払いが足りない」を防ぐための単元です。区分3の入口で、介護の2か月後入金を持つあなたの会社には、一番効く回です。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 資金繰り表の形
  3. 第2章 運転資金と、介護の2か月後入金
  4. 第3章 足りなくなりそうな時に
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 資金繰り :お金が足りなくならないように、入りと出を先読みすること

資金繰り(しきんぐり)は、これから数か月のお金の入りと出を予想して、残高が足りなくなる月がないかを見る作業です。 No.02で見たとおり、利益とお金は別物でした。その「お金の方」だけを追うのが資金繰りです。

家計にたとえると、給料日と引き落とし日のずれを見て、月末に口座が空にならないか確かめるのと同じです。

② 運転資金 :商売を回すために、先に出ていくお金

運転資金(うんてんしきん)は、仕事を回すために、入金より先に出ていくお金のことです。 人件費・仕入・家賃などを先に払い、売上のお金は後から入ってきます。この「先に払う分」を一時的に立て替えているのが運転資金です。

③ 似た言葉との違い

何のことか 見る表
利益 売上から費用を引いた結果(No.01) 損益計算書
現金残高 今、口座にあるお金 貸借対照表の現預金(No.04)
資金繰り表 先の数か月の現金残高の予想 自分で作る表
キャッシュフロー計算書 過去の期間のお金の動きの記録(No.05) キャッシュフロー計算書

キャッシュフロー計算書は「終わった期間の記録」、資金繰り表は「これからの予想」です。 ここが混ざりやすいので、先に分けておきます。

第1章 資金繰り表の形

① 月初残高+入金−出金=月末残高 必ず覚える

資金繰り表の計算は、これだけです。

月初の残高 + その月の入金 − その月の出金 = 月末の残高

そして月末の残高が、そのまま次の月の月初の残高になります。 これを月ごとに横に並べていくと、資金繰り表になります。

次は架空の例です。数字は説明用で、実際の会社の数字ではありません。

4月 5月 6月
月初残高 500万円 480万円 460万円
入金 300万円 300万円 300万円
出金 320万円 320万円 320万円
月末残高 480万円 460万円 440万円

この表の見方は簡単です。毎月20万円ずつ減っているので、残高が少なくなる月が来るかどうかを見ます。 利益があるかどうかは、この表には出てきません。見ているのは「口座の残高」だけです。

② 入金と出金は「お金が動いた日」で書く 必ず覚える

損益計算書は、売上を「仕事をした月」に書きました(No.01)。 資金繰り表は違います。お金が実際に入った月・出ていった月に書きます。

たとえば4月に仕事をして請求書を出し、お金が6月に入るなら、資金繰り表では6月の入金です。 人件費も、働いた月に払うなら出金はその月、翌月払いなら翌月に書きます。

「売上の月」と「入金の月」を分けて書く。これが資金繰り表のコツのすべてです。

③ 表にする時の手順 さらっと

作り方は4ステップです。

  1. 今の現預金残高を、最初の月初残高として置く
  2. 入金の予定を、入る月に書く(売上の月ではなく)
  3. 出金の予定を、払う月に書く(人件費・家賃・仕入・借入返済・税金・社会保険料)
  4. 月末残高を計算し、マイナスや心もとない月がないか見る

やり方は、freeeの入出金のデータをAIに渡して作ってもらえます。頼み方の例:「freeeの直近6か月の入出金を月ごとにまとめて、向こう6か月の資金繰り表(月初残高・入金・出金・月末残高)の形にして。売上の入金は、サービス提供の2か月後にずらして」。 ただし入金のずれの幅は、自分で教えないとAIは知りません。

○ よくある勘違い:「損益計算書の黒字を並べれば資金繰り表になる」→ ×。入金・出金の月がずれるので別の表です
○ 税金・社会保険料・借入返済は、まとめて出ていくので忘れやすい出金です
○ 関係する単元:No.02(利益とお金のずれ)、No.07(借入返済)

第2章 運転資金と、介護の2か月後入金

① 運転資金は「入金が遅れる分の立て替え」 必ず覚える

仕事をしてから、お金が入るまでに日数がかかる会社は、その間の費用を自分で立て替えます。 この立て替えの大きさが運転資金で、入金が遅いほど大きくなります。

目安の式は次のとおりです。

運転資金 ≒ 入金が遅れる期間の分の、毎月の出金

入金が1か月遅れるなら、おおむね1か月分の出金を先に用意します。2か月遅れるなら、おおむね2か月分です。 商売が大きくなって売上が増えるほど、立て替える額も増えます。ここが「売上が伸びているのにお金が苦しくなる」理由です(No.02の黒字倒産と同じ形です)。

② 介護報酬の例:2か月後入金 必ず覚える

訪問介護は、サービスを提供した月の約2か月後に、国保連(国民健康保険団体連合会)から介護報酬が入金されます。 一方、ヘルパーさんの給料は、毎月払います。

次の例は、No.02と同じ会社です。

この会社は毎月40万円の利益が出ています。 ところが事業を始めた最初の月から見ると、こうなります。

1月 2月 3月 4月 5月 6月
月初残高 600万円 240万円 −120万円 −80万円 −40万円 0円
入金 0 0 400万円(1月分) 400万円(2月分) 400万円(3月分) 400万円(4月分)
出金 360万円 360万円 360万円 360万円 360万円 360万円
月末残高 240万円 −120万円 −80万円 −40万円 0円 40万円

最初の2か月で合計720万円(360万円×2)が出ていくだけで、入金はゼロです。 手元の600万円では120万円足りず、2月末の−120万円は、借入などで用意しないと払えない分です。 3月から毎月40万円ずつ戻り、残高が0円に戻るのは5月末です。2月末から数えて、回復に3か月かかります。

このように、利益は出ていても、開業時や事業所を増やす時には、最初に約720万円を立て替える力が要ります。

事業所を増やしたり人を急に増やしたりする時は、同じことがもう一度起きます。 利益の計算ではなく、何か月分を先に立て替えるかで考えます。

③ 何か月分の現金を持つかの目安 必ず覚える

「手元に何か月分の現金があれば安心か」には、法律で決まった基準はありません。 覚えるのは、次のことです。

自社の入金が何か月遅れるかを知り、その月数分の出金を、先に立て替えられるか見る

介護なら入金が約2か月遅れるので、2か月分の出金です。例の会社なら、360万円×2=720万円です。これが、入金の遅れを埋めるのに最低限要る額です。

これに加えて、想定外の出費(売上が落ちた月・急な出費)に備える上乗せを、自分なりに足す考え方もあります。例として、さらに1か月分を足すと、3か月分の1,080万円(360万円×3)になります。 この「+1か月分」は、備えのための自分なりの例で、公的な基準ではありません。業種や借入の有無で変わるので、数字を暗記しないでください。

○ 物販やスタジオなど、先にお金が入る事業(前払い・クレジットカード即時入金など)は、運転資金が小さいか、逆に入金が先行することもあります
○ 複数の事業を持つ時は、事業ごとに入金の遅れ方が違うので、資金繰り表も事業ごとに作ると見やすくなります
○ 関係する単元:No.02(黒字倒産)、No.04(貸借対照表の現預金)、No.07(足りない時の借入)

第3章 足りなくなりそうな時に

① 見つけたら、早く動く さらっと

資金繰り表で、残高が心もとない月が見つかったら、その月が来る前に手を打ちます。 打てる手は大きく3つです。

どれも、足りなくなってからでは選べる幅が狭くなります。 銀行への相談も、残高が十分あるうちの方が通りやすいと言われます。資金繰り表を毎月更新するのは、このためです。

資金繰り表は「月初残高+入金−出金=月末残高」を、お金が動く月で書くだけ。介護は入金が約2か月遅れるので、約2か月分の出金は先に立て替える前提で現金を持つ。

確認問題

問1 4月に訪問介護の仕事をして、介護報酬が6月に入金される会社です。資金繰り表の「入金」には、この報酬をどの月に書きますか。

問2 月初の残高が300万円、その月の入金が200万円、出金が350万円でした。月末の残高はいくらですか。

問3 毎月の出金が360万円で、入金がサービス提供の2か月後になる訪問介護の事業を新しく始めます。最初の2か月は入金がありません。入金の遅れを埋めるのに最低限いくら要りますか(想定外への上乗せは含めません)。

問4 資金繰り表と、キャッシュフロー計算書の違いとして正しいものはどれですか。

出典:日本銀行・中小企業庁の公開資料の範囲では、資金繰り表の様式や必要な現金の月数を定めた公的基準は確認できませんでした。本単元の計算式と目安は、一般的な会計・経営の考え方に基づく説明です。介護報酬の支払いの流れ(国保連を通じた請求・支払い)は、厚生労働省・国保連の案内で確認できます(入金時期は事業所・月で異なることがあるため、自社の入金日は実績で確かめてください)。